【たびワイン】エジプトはナイルの賜物〜古代の葡萄酒の味わい〜
世界有数の大河のひとつである「ナイル川」。この川が育んできた土地でエジプトは高度な文明が花開きました。
現在エジプトを旅すると、偉大なエジプト文明を目の当たりにし、その壮大なスケールに圧倒されます。特にファラオ達の墓は現在の私たちにたくさんの事を教えてくれます。
今から3000年以上前の人々はいったいどのような暮らしをしていたのでしょう。
特に興味深いのが、食生活です。実際、彼らが残した墓や石碑から多くの事が明らかになっています。墓に刻まれている「死者に捧げる供え物リスト」。死者が来世で食べ物に困らぬように描かれたそうですが、ここにはパン・ビール・葡萄酒・ウシ・トリ・果物、サカナ、ブタ、ハーブなどリストアップされています。今の食生活と全く変わらず、とてもバラエティ豊かでありました。
実際、権力者の墓には棺と一緒に多くの壺が埋葬されました。発掘された壺からは葡萄の種や茎が発見され、中の残滓を分析すると、葡萄酒に一番多く含まれる有機酸の「酒石酸」が確認されました。
私たちが飲む葡萄酒は「赤」「白」「ロゼ」と3種類あり、食事に合わせて色を変えて楽しんだりしていますが、古代エジプトのワインは何色だったのでしょうか。今と同じく3種類あったのでしょうか。
赤ワインと白ワインの違いは、葡萄の果皮を果汁と一緒に漬け込むか否かです。赤ワインの赤い色は赤い葡萄、もしくは黒い葡萄の果皮に含まれる色素成分が液体に抽出され、ワインの色が赤くなります。白ワインは白い葡萄でその果汁だけで造るので、色はつきません。遺跡で見られる壁画には葡萄に赤やピンクの色がついていて、絞られている果汁もピンク、又は濃い赤色をしています。ということは、古代エジプトでは赤ワインが主流だったと考えられていました。
しかし近年、あの有名なツタンカーメン王の墓に埋葬されていた葡萄酒の壺の残滓を分析したところ、新しいことがわかりました。葡萄酒と定義するには先ほどの「酒石酸」が検出されること。また、赤い葡萄酒と定義するには「シリンガ酸」が検出されることなのですが、ツタンカーメン王の墓で保存状態のよかった6つの壺で「シリンガ酸」が検出されたのは1つのみ。残りの5つの壺からは検出されませんでした。と言うことは白い葡萄酒が入っていたことになります。これは大きな発見でした。白ワインは皮や種を取り除くなど、手間がかかるのでツタンカーメン王に送るための最高級の葡萄酒だったのかもしれません。
また、味わいですが、壺からは葡萄以外に「イチジク」も検出されています。現在の醸造法に比べたら、非常に不安定な環境で葡萄酒が造られていたので、毎回美味しく飲みやすい葡萄酒を造るのは難しかったはず。恐らく飲みにくいワインの味わいをまろやかに、甘やかにし、また風味もよくするためにイチジクを加えていたのではないでしょうか。
それにしてもツタンカーメン王ですが、彼は9年の治世で、16歳から19歳頃、若くして亡くなったと言われています。彼の墓から多くの壺が見つかりました。きっと葡萄酒が好きだったのでしょう。そして特定の時期しか咲かない花が、墓から発掘されています。その花の季節は12月から2月。ちょうど秋に仕込んだ葡萄酒が美味しくなるころ、一緒に埋葬されたのですね。