【たびワイン】ドイツ二大銘醸地のひとつ「モーゼル川」<後編>
すっかり収穫の終わったモーゼル川に行ってきました。少し寂しい景色ではありましたが、モーゼル川の産地のブドウ栽培の様子がよくわかりました。
ワイン用ブドウ栽培で大切なもののひとつに畑の土壌、土が挙げられます。この土の状態が1つの産地でも場所によって違うので、ワインの味わいもその産地の細かい畑の位置で変わってきます。
モーゼル川の場合、「上流」、「中流」、「下流」と大きく3つの地域に分かれ、それぞれの土壌が異なります。
例えば、「上流」地域(ルクセンブルク)の土壌は貝殻を含む石灰岩が多く、ここでは赤ワイン用のピノ・ノワールに合う環境です。ピノ・ノワールと言う品種は世界中どこでも栽培できるわけではなく、とても環境を選ぶブドウ品種。人間の性格で言うと「気難しい」、栽培もとても難しいブドウ品種です。モーゼルで赤ワインと言ったら「ピノ・ノワール」でしょう。
その他の産地は粘板岩(ねんばんがん)と呼ばれる土壌で、この粘板岩は土壌の組織成分により色が赤、青、灰色とあり、特に青色粘板岩が多い「中流」地域は多くの銘醸地が集中しています。ここでは余韻の長いリースリングが造られていることで有名です。
また、この土壌に火山性の成分が加わると、出来上がるワインにハーブを思わせる華やかな香りが生まれたり、海のミネラル性を感じたりすることができます。
この様に、モーゼル地方はモーゼル川が運んできた豊かな土壌と、標高がやや高い冷涼な産地と言うことで、世界中、他の産地では見られない特別な環境を造り出し、他の産地では生まれないスタイルのワインを産出することができます。モーゼルワインはモーゼル川でしが産み出すことのできない、唯一無二のスタイルなのです。
そのモーゼル地方で多く造られているワインは、白ブドウの「リースリング」です。ここでは約60%の畑が「リースリング」を栽培しています。かつて、ドイツワインは甘みの残る果実味豊かなワインが知られていましたが、現在は温暖化と栽培醸造技術の向上により、土壌の個性を反映した辛口のワインが約4割を占めています。もちろん、今まで通りアイスヴァインやトロッケン・ヴェーレン・アウスレーゼ(貴腐ワイン)のような甘口も、モーゼル独特のエレガントな酸味により特別なワインとして愛好家たちに親しまれています
モーゼル地方は雪の少ない穏やかな冬と、最高気温35度超えもある比較的暑い夏、春から秋にかけて適度な雨に恵まれた気候ですが、年に数日は氷点下7度前後になり、ブドウの実が凍った時に収穫するアイスヴァインの生産が可能です。アイスヴァインは氷点下7度以下にならないと収穫してはいけないというルールがあるので収穫する時は寒さとの闘いです。
また、モーゼルではブドウ畑の斜度が30度もあり、これはスキーのジャンプ台と同じくらいです。この様な傾斜の畑でブドウ栽培をするには特別な仕立て方で仕立てます。通常ブドウの木は垣根仕立てと言って、一列に垣根のように仕立てていきますが、ここは一本一本支柱を立てて隣のブドウ樹とは繋げないで仕立てていきます。そうすることで、作業する際急斜面を自由に行き来することができます。ただでさえ、斜度が厳しい中での仕事ですから、自由に畑を歩き回れる方が作業しやすいです。それでもモーゼルのブドウ畑に立つと、足がすくんでしまうくらいの急斜面で作業は困難。しかし、この地のブドウ栽培における土壌や日当たりの良さを昔の人々も経験から熟知していて、試行錯誤しながら今のスタイルを作り上げたようです。
モーゼルではリースリングワインが一番有名です。他の地域のリースリングとは格が違うので、ぜひお試しください。
◆リースリングの特徴◆
香りは桃やアプリコットのようなほんのり甘い香り。しかし、甘い香りからは想像できないほど酸が強い。
数ある白ワインの中でリースリングはトップクラスの酸の強さ。冷涼な気候を好むリースリングは酸の強さがひとつの特徴です。
魚料理にはもちろん、茹でたソーセージや、温野菜、和食、シンプルな鶏肉料理などに合わせてみてください。